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M&A(Mergers and Acquisitions)
普通株式
M&Aにおける普通株式の理解
普通株式、または一般株とも呼ばれる株式は、合併および買収(M&A)取引において重要な役割を果たしています。以下は、その重要性の概要です。
1. 所有権の権利:普通株式は企業の所有権を表し、通常、投票権を伴います。普通株式を保有する株主は、取締役会の選出や重要な取引の承認など、企業の重要な意思決定に参加する権利があります。
2. 配当権利:普通株式の保有者は、企業が利益を株主に配当する際にその受取権を有します。普通株式主への配当額は通常、企業の収益性や配当ポリシーによって決定されます。
3. リスクとリターン:普通株式への投資には、リスクと潜在的なリターンの両方が伴います。企業が業績不振の場合、株主は損失のリスクを負いますが、企業価値が時間とともに増加する場合には資本利益を得る機会があります。
M&A取引における普通株式の価値の解明
普通株式とは、株式の内容について定款で格別の定めを設けていない株式のことで、株式市場で自由に取引ができる通常の株式のことを言います。会社法でも普通株式のことを「会社法107条1項各号・108条1項各号に掲げる条項が付されていない株式」となっています。株主に与えられる権利は一切限定されてはいません。日本の証券取引所で取引されているほとんどが普通株式で取引されています。株式会社は複数の種類の株式を発行できますが、普通株式というのは標準の株式なのです。普通株式以外の株式には、利益の配当を受ける権利・残余財産の分配を受ける権利を優先して受けることができる優先株式、一般の株主より分配が後になる劣後株式、子会社の業績に連動する子会社連動株式といった様々な種類があります。普通株というのは、このような株式の基準となる株式となります。そして普通株式は、株主総会における議決権・配当を受ける権利等が付属しています。企業は自社株買いにより、普通株式を株式市場などから購入するケースがあります。企業が株式市場から取得した普通株式は、後々に他の企業をM&Aをする際に使用されることがあるのです。
M&Aにおける普通株式の役割の理解
普通株式は、M&A取引の基本的な要素であり、取引の構造や結果に影響を与えます。以下では、その役割について詳しく見ていきます。
1. 評価の影響:M&A取引において、普通株式の価値は対象企業の総合評価の重要な要素です。買収者は、対象企業の収益、資産、および成長の可能性を分析して、その普通株式の公正な価値を評価します。
2. 報酬の構造:買収者は、対象企業を取得するための対価として現金、株式、または他の証券を組み合わせて提供することがあります。普通株式を対価の一部として提供することで、買収者は自社の株式を通貨として活用し、対象企業の株主に合併後の成果に参加する機会を提供します。
3. 株主の承認:新しい普通株式の発行や所有構造の大きな変更を伴うM&A取引は、通常、関係企業の株主の承認を必要とします。株主の投票は、提案された取引の成功または失敗を決定する上で重要な役割を果たし、取引の潜在的な利点に対する彼らの信頼を反映します。
M&A取引における普通株式の具体例
いくつかの顕著なM&A取引は、普通株式の重要性を示しています。以下はその例です。
1. マイクロソフトによるLinkedInの買収:2016年、マイクロソフトは専門的なSNSであるLinkedInを約262億ドルで買収しました。この取引は現金と株式の組み合わせで構成され、LinkedInの株主は現金196ドルとマイクロソフトの普通株式を受け取りました。マイクロソフトの普通株式を対価の一部として使用することで、LinkedInの株主はマイクロソフトの株主となり、両社間の潜在的なシナジーを享受する機会を得ました。
2. バーライゾンによるYahooの買収:2017年、バーライゾン・コミュニケーションズはYahooのコアインターネット事業を約448億ドルで買収しました。この取引には、バーライゾンの新株の発行が含まれていました。この取引はデータ漏洩や規制当局の検査などの課題に直面しましたが、バーライゾンの普通株式の利用は取引を円滑に進め、Yahooの株主にバーライゾンの将来の成長見通しへの参加機会を提供しました。
3. ウォルト・ディズニーによる21世紀フォックスの買収:2019年、ウォルト・ディズニー・カンパニーは21世紀フォックスのエンターテイメント資産を約713億ドルで買収しました。この取引には現金とディズニーの普通株式が含まれ、21世紀フォックスの株主は現金357億ドルとディズニーの株式を受け取りました。ディズニーの普通株式の使用により、21世紀フォックスの株主は統合エンティティの株主となり、ディズニーの多様なメディアおよびエンターテイメント資産のポートフォリオに対する所有権を持つこととなりました。
株式交換のM&Aに普通株式を使う
M&Aをした企業に対して、互いの株式を交換することによって買収企業を傘下に置くようにするケースが多いです。しかし、その場合の互いの株式の交換比率は、それぞれの事業規模にあった比率で定められることになります。それからM&Aをした企業は、買収した企業の株式を消却することもあります。今ではグローバル化が進んで先進国の企業が、新興国など成長できる企業をM&Aなどをするケースが増加しています。それで先進国の企業は、自社の普通株式を相手企業の株式と交換することによってM&Aを成し遂げることが増えているのです。今までは企業のM&Aに必要になる資金は、新株発行などをすることによって調達することが多かったですが、新株発行などをすると株式の希薄化が起こる恐れがあります。すると株式市場の株価が下落することになりますし、既存の株主に迷惑をかけることになります。ですから将来のM&Aのために企業では事前に自社株買いをしておいて、M&Aが決まった時には、自社買いしておいた普通株式を買収時に使用するようにしているのです。
普通株式は、株主の所有権、配当権、および投資機会を表すM&A取引の不可欠な要素です。M&A取引において、普通株式の評価の影響、報酬の構造、および株主の承認プロセスは、普通株式の役割に影響を受けます。マイクロソフトによるLinkedInの買収、バーライゾンによるYahooの買収、ウォルト・ディズニーによる21世紀フォックスの買収などの例は、普通株式がM&A取引の構造化と実行にどのように活用されるかを示しています。